2014年8月20日水曜日

博士の愛した数式-黒澤明との融合


過日BSで、「博士の愛した数式」を見ました。
小泉堯史監督の作品は、「雨あがる」であまりの黒澤映画っぷりに驚かされたのですが、「阿弥陀堂だより」では独自色に拍子抜けしていました。
ちょっとぬるくやさしくなったなぁ~という印象で。
今回も独自色なんだろうなぁ~との予想から観るのを控えていたんですが、観てみてよかった。
今回のは何でもないようなシーンに緊張感がある上、そこに小泉監督のやさしさやほのぼのとしたものが加わって、いい形で黒澤映画と独自色が融合されてたように感じました。
この緊張感を保つにあたって、うまく作用したのが、博士の存在なのかな~
黒澤映画には、緊張感をただよわす登場人物が不可欠なんじゃないだろか?
ところが、現代劇を撮ろうとすると、普通の現代人にはあれほどの緊張感を持った人間ていないんですよね。
「阿弥陀堂だより」がゆるかったのは、寺尾聰の役柄がギリギリの宿命を持ったような人物じゃなかったからかもしれません。
だから、古典芸能のシーンばかり緊張があふれていて、ドラマのシーンが緩く感じちゃうんだろな~
今回は、古典芸能のシーンの方が緩く感じるくらいでした。
どちらかといえば黒澤映画は、壮絶なラストシーンみたいなものを楽しむ映画ではなくて、途中のなんでもないようなシーンが非常に面白い映画と感じます。
そのことは、鉄道マニアの旅行の楽しみ方のようなものとちょっと似てるんじゃないかな~?
例えば、札幌から有馬温泉にはいりに行くとします。
普通の旅行者は、有馬の金泉銀泉につかっていい気分になることや、温泉施設で遊興することを楽しみにしますよね。
札幌から有馬までの行程は、ただのおまけで疲れる作業でしかなく、できるだけ早く過ぎ去って欲しいものであるはずです。
しかし、鉄道マニアにとってはその行程こそが旅の醍醐味な訳です。
快速エアポートのUシートはどうなってるとか、関空から大阪市街までは、前回南海ラピートだったから今回ははるかで行こうとか、弁天町で乗り換えしたら思いがけず交通博物館があったので寄ってみたとか、ちょっと遠回りだけどテクノポート線やニュートラムにも乗れるルートで行ってみようとか、有馬までは行きはケーブルカーとロープウェイ乗り継いで帰りは神戸鉄道と北神急行乗り継ぎの別ルートにしようとか・・・
もちろん、クライマックスである有馬温泉が楽しければ申し分ないわけですが、その過程でもう十分楽しんでいるので、その時点でもとをとってしまっているんですね。
「博士の愛した数式」も、ラストシーンにいたる過程までに十分、いい心地にされてしまっているので、ラストはいいにこしたことはないけれども、特にそこで猛烈な感動が襲ってこなくても、いい作品だったなぁ~と思えるんですね。そういうところも黒澤映画らしいと感じました。
劇中、寺尾聰と深津絵里など少人数だけが登場するシーンの他に、少年野球のシーンがあります。
そのシーンは、役者としてコントロール不能な多人数が画面に登場する場面となります。
そういったシーンにまで緊張感を持たすことだけは、さすがに黒澤天皇のような権威がないと無理なのかも知れません

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